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泌尿器科疾患

泌尿器科の悪性腫瘍、癌

膀胱癌のまとめ

膀胱の粘膜である移行上皮が癌化したものがほとんどです。組織学的には移行上皮癌と呼ばれ、腎盂癌、尿管癌と同じ仲間です。 内視鏡、尿細胞診(尿中にこぼれてくる癌細胞をみつける検査)で診断されることが多く、まず、内視鏡的な手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt)を行い、 癌の確定診断と組織型(どれくらいの悪性度か)、深達度(根の深さがどれくらいか)を判定します。その結果により、膀胱を温存しながら治療をするか、 全摘などの根治的治療が必要かを判断します。
根が浅い表在性の場合は、膀胱を温存して経過をみます。筋層まで根が及んでいる(T2以上)の場合は根治的膀胱全摘術の対象になります。 近年、抗癌剤の動脈内注入療法と放射線療法の併用にて、T2以上の癌にも温存することが試みられており一定の効果を上げています。 膀胱を温存しても、50%以上の膀胱再発があるので、十分注意して経過をみることが必要です。
膀胱全摘術を行うと、尿を溜めて出すということができなくなります。そのため、尿路変向という手術を同時に行います。従来は小腸を一部使って、 お腹に袋をつける回腸導管という方法が一般的でしたが、尿道を残して小腸で膀胱の替わりになる袋を作る代用膀胱、新膀胱という手術も行われています。
残念ながら進行した場合は、MVAC療法という抗癌剤を複数組み合わせた点滴をおこないます。一定の効果が確認されていますが副作用も強い治療で、 新しい薬剤の組み合わせが検討されています。

膀胱は、、、

膀胱は胴体の下の骨盤腔内にある臓器です。尿を溜めておく袋の役割と、収縮して出す働きを併せを持っています。伸びたり縮んだりする筋肉の袋ですが、内側の表面(粘膜)は、「移行上皮」という名前の皮でおおわれています。
膀胱がんは、この移行上皮ががん化することがほとんどで、組織学的には「移行上皮がん」が90%を占めています。

膀胱がんの統計

尿路のがん(腎盂がん、尿管がん、膀胱がん)の中で膀胱がんはかかる人がもっとも多く半数を占め、死亡数は7割以上を占めます。
男女とも60歳以降で膀胱がんになる人は増加します。男性のほうが女性より約4倍の罹患率です。

原因・誘因

膀胱がんのリスクで分かっている最大の要因は喫煙(たばこ)です。喫煙者は非喫煙者の2〜3倍なりやすく、男性の膀胱がんの半分以上は喫煙が原因といわれています。
職業性膀胱がんというのもあり、ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルも確立したリスク要因とされています。発展途上国では、ビルハルツ住血吸虫症がリスク要因である可能性が高いとされています。その他、リスク要因の候補として、フェナセチン含有鎮痛剤、シクロフォスファミド、コーヒー、塩素消毒した飲料水が挙げられていますが、疫学研究では一致した結果は得られていません。

膀胱癌の分類

膀胱がんは、大きく分けて3つのタイプがあります。
肉眼的に、ちょうどカリフラワーか、いそぎんちゃくのように表面がぶつぶつとなっているかたちをしたがん(乳頭がんともいいます)で、膀胱の内腔に向かって突出しています。しかし、がんの病巣は、膀胱の粘膜にとどまっていることが多く(表在性がん)、転移や浸潤(しんじゅん:がんが周囲に拡がること)をしないものです。

1.のタイプのがんと異なり、がんの表面は比較的スムーズ(非乳頭がん)で、こぶのように盛り上がったものから、膀胱粘膜下に進展して粘膜がむくんで見えるものまでさまざまです。このがんは、膀胱を貫いて、壁外の組織へ浸潤しやすく、また転移しやすい特徴があります。

膀胱の表面には、ほとんど隆起した病変を生じませんが、膀胱粘膜壁に沿って悪性度の高いがん細胞が存在している状態(上皮内がん)です。初期のがんではありますが、無治療でいると浸潤性のがんになっていきます。
これらのがんでは、それぞれ性格がかなり違っているために、どのタイプであるかによって治療法が異なってきます。また、膀胱がんは膀胱内に多発する傾向があるばかりか、尿の流れの上流である尿管や腎盂にも同様の病変が存在している場合がありますので注意が必要です。
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症状


1)肉眼的血尿
膀胱がんの初発症状として、最も多く認められる症状です。膀胱炎と違って、痛みは伴わないことが一般的です。数日経過すると突然血尿が止まってしまう場合がありますが、心配ないということは決してありません。しかし、血尿があるからといって、必ずしも膀胱がんをはじめとする尿路系のがんがあるとも限りません。
2)排尿痛
ときに、膀胱がんの初発症状が排尿時痛や下腹部の痛みで出現する場合があります。この症状は膀胱炎と非常に類似していますが、抗生剤を服用してもなかなか治らないことが特徴です。
3)背部痛
初発症状になることはまれですが、膀胱がんが拡がり尿管口を閉塞することによって、腎臓がつくり出した尿が膀胱まで流れず、尿管、腎盂が拡張してくることがあります。これを水腎症と呼んでいますが、水腎症になると背中の鈍痛を感じることがあります。

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診断


膀胱がんは、膀胱鏡を行うことによってほとんどが診断できます。尿にがん細胞が落ちているかを調べる尿細胞診も有効な検査です。しかし、小さな乳頭状のがんでは、尿細胞診ではっきりがん細胞と断定できないことがあります。ひとたび膀胱がんが見つかった場合には、他のがんと同様に、CTや胸部X線撮影、腹部のエコーなどでその拡がりと転移の有無を調べる必要があります。しかし、乳頭状のがんは転移したり局所で浸潤するようなことはまれですので、必ずしも全身の転移の検索は必要ではありません。また、膀胱にがんが見つかった場合、同じ移行上皮でおおわれている腎盂・尿管にも同様のがんが見つかる場合がありますので、腎盂・尿管の病変の有無をチェックする排泄性腎盂造影検査を行う必要があります。がんの確定的な診断には、腰椎麻酔下に膀胱粘膜生検が必要です。
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4.病期(ステージ)

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膀胱がんは、1.局所でどれくらい進展しているか、2.リンパ節に転移がないか、あるとすればどの程度か、3.他の臓器に転移がないかの3つに分けて病期を分類します。ここでは、国際的に用いられているTNM分類を簡単に解説します。
1)T-原発腫瘍の壁内深達度

TX
原発腫瘍が評価されていないとき


T0
腫瘍なし


Tis
上皮内癌(CIS)


Ta
浸潤なし


T1
粘膜下結合組織までの浸潤


T2
筋層浸潤があるもの


 T2a:
筋層の半ばまでの浸潤


 T2b:
筋層の半ばを越えるもの


T3
膀胱周囲脂肪組織への浸潤があるもの


 T3a:
顕微鏡的浸潤


 T3b:
肉眼的(壁外に腫瘤があるもの)


T4
腫瘍が以下のいずれかに浸潤するもの
前立腺、子宮、膣、骨盤壁、腹壁


 T4a:
前立腺、子宮あるいは膣への浸潤


 T4b:
骨盤壁あるいは腹壁への浸潤




多発性腫瘍を表すには接尾辞(m)を付け加える。(例T2m)




上皮内癌が随伴するときに接尾辞(is)を付け加えてもよい。




上皮内癌が前立腺管内に浸潤するときには接尾辞(pd)をつける。(例T4pd)




上皮内癌が前立腺部尿道に浸潤するときには接尾辞(pu)をつける。(例T4pu)




上皮内癌が尿管に浸潤するときには接尾辞(u)をつける。(例T4u)
2)N-所属リンパ節

NX
所属リンパ節が評価されていないとき


N0
所属リンパ節転移なし


N1
2cm以下の1個の所属リンパ節転移を認める


N2
2cmを超え5cm以下の1個の所属リンパ節転移、または5cm以下の多数個の所属リンパ節転移を認める


N3
5cmを超える所属リンパ節転移を認める
3)M-遠隔転移

MX
遠隔転移の有無不詳


M0
遠隔転移なし


M1
遠隔転移あり




M1は下記の表示法によりさらに詳しく記載できる




 肺 PUL
骨髄 MAR




 骨 OSS
胸膜 PLE




 肝 HEP
腹膜 PER




 脳 BRA
副腎 ADR




 リンパ節 LYM
皮膚 SKI




 他  OTH





各種臨床検査でMと判定されたときは、その部位と診断法を付記しておく(例 肺-胸部X線、脊椎-X線、骨scan)。




M1はさらに以下のように細分することが望ましい。




生化学的検査などにより部位不明であるが血行性転移ありと推定される場合:M1-a




触診、X線検査、各臓器scanning、CTなどにより部位が明らかにされており、




 単一臓器(臓器名)に1個の転移巣:M1-b




 単一臓器(臓器名)に多発性転移巣:M1-c




 数個の臓器(臓器名)に転移巣   :M1-d
これらの組み合わせによって、膀胱がんの病期分類がなされます。例えば、がんが膀胱周囲の脂肪層まで浸潤し、リンパ節転移が1個見つかったが、他の臓器に転移がなかった場合には、T3N1M0となります。これらの数字が高いほどがんは進行していることになります。
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治療
外科的治療

膀胱がんの外科的な治療は大きく分けて2つの方法があります。ひとつは、腰椎麻酔を行って膀胱鏡で腫瘍を観察しながらがんを電気メスで切除する方法(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-BT)、もうひとつは、全身麻酔下に膀胱を摘出する方法(膀胱全摘除術)です。それぞれについて説明します。

(1)経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)

一般に、表在性の膀胱がんにこの術式が適応となります。膀胱内に特殊な膀胱鏡を入れて内視鏡で確認しながら、電気メスでがん組織を切除する方法です。手術時間は1時間程度です。手術後膀胱を安静に保つ目的で、自然に尿を体外へ誘導するために、膀胱内に管(カテーテル)を留置します。通常翌日に抜去しますが、状況によっては数日間留置します。浸潤度の高いがんでは、完全に切除することが困難で、この治療法では不十分です。

(2)膀胱全摘除術

がんの浸潤度が高く、TUR-BTで不十分な時にはこの手術が必要です。全身麻酔を行い、骨盤内のリンパ節の摘出(骨盤内リンパ節郭清:こつばんないりんぱせつかくせい)と膀胱の摘出を行い、男性では前立腺、精嚢(せいのう)、女性では子宮を摘出します。また、尿道も摘除することがあります。男性では、手術後にインポテンツになる可能性が高いのですが、術式によっては、それを防ぐことは可能ですので、担当医と相談してみて下さい。ただし、前立腺、精嚢をとってしまうため、射精は全く不可能になります。

膀胱を摘出した後は、「尿をためておく袋」がなくなりますので、何らかの尿路の再建が必要となります。これを尿路変向(変更)術と呼びますが、大きく分けて3つの方法があります。また、尿路変向(変更)術後のリハビリテーションについては「泌尿器がん手術後の排尿障害のリハビリテーション」の項を参照して下さい。
回腸導管造設術
左右の尿管を遊離した小腸の一部に植え込んで、その回腸の先を皮膚に出す方法です。皮膚から飛び出した回腸の部分をストーマと呼びますが、ストーマには尿をためる袋をつけておかなければなりません。この方法は、かなり以前から行われている最もオーソドックスな方法で合併症が少ないことが特徴です。しかし、たえず尿がストーマから流れ出ているので、常時袋をつけていなければならないわずらわしさがあります。
自排尿型新膀胱造設術
腸を使って人工的な尿をためる袋をつくることは導尿型新膀胱造設術と同じですが、その出口を尿道につなぐ方法です。これは先の2つの方法とは違ってストーマがなく、今までと同じように尿道から尿が出せることが大きな特徴です。しかし、膀胱がんは尿道にがんが再発することがあるため、尿道に再発する危険性が高い場合は適応となりません。排尿機能は本来の膀胱のようにはいきませんが、近年術式も安定し、尿道を温存できる場合には、第一に考慮する方法です。ただし、女性では術後の排尿機能が安定せず、おすすめしていません。
導尿型新膀胱造設術
回腸導管の欠点をカバーするために、近年登場してきた方法です。異なる点は、腸を袋状にし、かつある程度たまるまでは尿が漏れないような工夫をすることです。施設によってつくり方や使用する腸の部位が若干違っていますが、発想はすべて同じです。人工的に腸でつくった袋に尿がたまった時に、ストーマから自分で管を挿入し導尿します。したがって、ストーマはあるものの常に尿が流れ出ている状態ではありません(尿の禁制が保たれている)ので、袋を貼るわずらわしさがありません。ただし、回腸導管に比べれば歴史は浅く、長期成績がないこと、手術の時間がかかることなどが欠点となっています。また、手術後、新膀胱内に結石ができることが多く、この点からはあまりクオリティのよい方法とはいえません。
これらの術式のうち、どの方法にするべきかは、がんの状況、本人の体力や希望によって十分検討する必要があります。

2)放射線療法

放射線にはがん細胞を死滅させる効果があるので、がんを治すため、またはがんにより引きおこされる症状をコントロールするために使われます。放射線治療の適応となるものは基本的に浸潤性の膀胱がんです。膀胱の摘出手術では尿路変更が必要となるデメリットがあるため、あえて放射線治療や、放射線治療に化学療法をあわせて治療し、膀胱を温存することもあります。しかし、病巣周囲の正常組織にも放射線の影響が及ぶため、膀胱が萎縮し尿が近くなったり、直腸より出血したり、皮膚のただれが生じることがあります。また、転移した病変のコントロールに放射線治療が選択されることがあります。
3)抗がん剤による化学療法
転移のある進行した膀胱がんは化学療法の対象になります。使用する抗がん剤は、1種類ではなく、通常2種類以上です。M-VAC療法(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシンあるいはその誘導体、シスプラチンの4剤の組み合わせの治療)が、現在膀胱がんの治療に最もよく行われる化学療法です。2004年に入りすべての薬剤が膀胱がんの治療薬として保険に認可されました。治療中は副作用として、吐き気、食欲不振、白血球減少、血小板減少、貧血、口内炎などがおきることがあります。また、転移がない膀胱がんでも、筋層以上に浸潤している時には、術後の再発や、遠隔転移の予防に術前、あるいは術後に化学療法を追加する場合があります。近年タキソールやジェムシタビンといった新しい抗がん剤を用いる治療も注目されています。
4)BCG、あるいは抗がん剤の膀胱内注入療法
膀胱内に上皮内がんや多数の乳頭状のがんがある場合には、膀胱内にBCGや抗がん剤を注入することがあります。この治療は外来で行うことができ、週に一度の注入を数回行います。浸潤性の膀胱がんにはこの治療は適しません。また、TUR-Btの後に何度も再発するような膀胱がんに対し、再発予防にこれらの薬を注入することがあります。
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6.治療後の通院について


膀胱がんは膀胱が存在する限り、膀胱内に再発する可能性は常にあります。TUR-Btの後は、担当医の指示にしたがって定期的に外来に通院し、膀胱鏡や尿の細胞診でチェックしてもらう必要があります。膀胱を摘出した場合には、転移が出現していないかなど定期的なチェックももちろんのこと、回腸導管や、腸管でつくられた新膀胱がきちんと機能しているか、腎障害が出てきていないかなどのチェックも必要になってきます。
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7.生存率


生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
表在性の膀胱がんでは、致命的になることはまれです。ただし、前にも述べたように、このがんは膀胱内に多発すること、何度も再発することが特徴ですので、定期的に膀胱内を観察していかなければなりません。また、ときに再発を繰り返すうちに、浸潤性のがんへとがんの性質が変化することがありますので、注意が必要です。また、浸潤性膀胱がんで手術を行った場合、だいたいの5年生存率はT1で95%、T2で80%、T3で40%、T4で25%程度です。近年、化学療法なども進歩してきており、今後これらの成績も向上していくものと思われます。また、これらの数値はたくさんの患者さんの平均的な統計学的数値であり、あくまでその傾向を示すもので、個々の患者さんにあてはまるものではありません。

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